愛のカマイタチ2四章1 王宮へ まだ、鶏の鳴き声も鳴かない時間。ワンダー卿の時の声が、『炎たちあがるサラマンダー亭』にコダマした。 騒々しい声で叩き起こされたウインたち一行。ぶつぶつと不満をあげている者たちを無視して、話すワンダー卿。 「国王からのお達しである。魔法使いウイン・クリューならび、その弟子サファイヤ、あと、炎使いマリス・グランドールの三名。陛下、直々に、今回の騒動を訊く事にあいなった。 速やかに宮殿に赴くこと」と問答無用の構えである。 なお、『炎たちあがるサラマンダー亭』の諸君と、火元で災難にあった者たちは、こちらで待機するように、との事である。犯人が、まだ、見つかっていない。 また、襲撃の恐れが残っている為に、ワンダー卿の部下と、今回は特別に、魔導師宮からも護衛にあたる。 粗相のないように、国王に今回の事件の真相を、申し上げることである。 自慢の髭が朝日に映えて誇らしげに話すワンダー卿。その対照的に、厄介なことになったとぶっちょ面のウインであった。 サフィは心配顔で、ウインを見つめているし、マリスにおいては、蒼白な顔でワンダー卿を睨みつけていた。 うるし塗りの豪華な馬車に乗せられるウインら三人。俺も連れて行って欲しいとつぶやくグランの姿があった。 不安と憤りをかもしつつ馬車は、湖畔の高台に鎮座する王宮へ。 今回の出番はないと、悔しそうな顔しながら、三人を見送るアトラスとローザたちであった。 その後から、息を切らして、赤い顔をしながら駆けて来る町の顔役のチョーさんの姿が見とれた。 2 新たなる敵 ウイン一行が、王宮に向うという情報は、目ざとく二手の所にもたらされた。 「お頭、厄介なことになり申した」 侍女の拉致未遂の件といい。マリスの放火炎上の罪で捕らえられた件といい、こちらサイドには、不利な件ばかりだ。 即刻、国元の戻って殿の意見を聞かなければならぬ。 あと、奥方が新たに我が子をもうけた事も告げなければならぬな。と愚痴るお頭であった。 もう一方では、「魔法使いウイン?聞かぬ名だな」 「それなりに技術は持っておりますね。弟子の腕前も確かだ」とか聞き及んでおります。腹心が話す。 「まあ、いい。策はまだある」 ここは慎重に、かつ、大胆に、あの母子を闇に葬る手立てを考えようじゃないかと、不適な笑みを浮かべた黒いローブをまといた魔導師の姿があった。暗黒竜を祖とする黒魔導師たちの一派なのであろう。 やがて、二手から二羽の使い魔が、北に向かって飛び立っていった。 黒々と複雑に絡み合うような、暗雲漂う北の大地だ。 一方、物凄いスピードで、別のルートで駆けて行く馬の姿があった。 元侍女であった娘の所に、エルザの手紙を届けに行くグラン。 エルザからの手紙を読んで、二つ返事で、また、奉公することを受け入れた娘。 再び侍女になることに、誇らしげな娘と、羨望の目で見つめている村人達。 色々な思いが交差する中グランと娘は、再び王都に舞い戻って行った。 3 昼食パーティー 「うわー大きい」と感銘にもらすサフィ。正門の前に立ったウイン一行。 ウイン様は、こちらからになります。脇にある幾分小さな門を指を差した門兵。 うながされて仕方なく入るウイン。緊張の面持ちで入るマリス。その一方、サフィはわくわくしながら、周りをきょろきょろ落ち着きなく長い廊下を歩く。 やがて、タタミ二十畳ほどの部屋に案内された。 しばらく、待っているようにと、係りの者に通達された。 部屋の中には、簡単な菓子類と気品のある紅茶がおかれていた。 そういや、もうじき昼だなと、腹が減ってきたマリスは、菓子を頬張りつつ、心を落ち着けようと努力している。 お腹がすいたよね。とサフィが呟く。王宮に入ってから無言で、難しい顔をしながら腕組みをしているウインは、ただ、頷くだけ。 長き時が過ぎたように感じられた。 おもむろに、扉が開いて、執事から、これから、国王を交えて昼食会を執り行う。いやいや、一介の魔法使いに対して破格の対応であった。 でも、言われて当然のウインは、鷹揚にうなずき軽やかにたって、部屋から出て行こうとする。慌てて、サフィとマリスもウインの後を続く。 先程の部屋より大きめでゴージャスな食堂に連れて来られたウイン一行。 中に入ると数人の客が雑談をしていた。 おもむろに、入ってきたウインたちを吟味する視線であったが、知った顔があり緊張が緩むサフィ。そう、アスカだ。 知らない人たちと取り持つためか、アスカは、ウインたちの所に移動した。 陛下はまだ来ておられないとこを告げて、要人達を紹介していく。 大人びれた姿に、目を細めるウイン。 一人、年老いた魔導師を紹介するアスカ。 「宮廷魔導師長のジーザス老です」 「一介の魔法使いウインだ」と、知ったかぶりで話すウイン。 よくぞ、王都に来てくれたと、くっかくのない笑顔で握手を求めるジーザス老。 その姿を横目で見ているマリスは、なぜ・どうしてと、こんな待遇になるのかと、まったくもって戸惑を隠せない。 そのマリスの前にジーザス老が、やってきた。 そなたの活躍は聞き及んでおるぞ。よく、ウインたちが来るまで、火事を食い止めておった。 意外な言葉を聞き、慌てるマリス。自分が欲していた事を受け止めてもらえて涙を堪えるのに必死で、あとのジーザス老の言葉が聞き取れなかったと悔やむ。 サフィはと目を移すと、アスカやジーザス老と、その他諸々の人たちに囲まれていて、対応に大わらわのようだ。 そんな折、朗々とした声で、国王おなりと執事の時の声が聞こえた。 なお、昼食会は、特別の計らいによって、立食パーティーとします。 各位の皆さん、この場は無礼講といたしますので、思う存分楽しんで行ってくださいませ。 サフィとマリスと、談笑しているウイン。サフィの顔に緊張が走った。 怪訝に思って振り向こうとする瞬間。背後から首根っこをタックルするように捕まえられた困った顔のウインと、その横で満面の笑みを浮かべている国王の顔。 恐れ多いことだと、緊張しているサフィとマリス。 4 褒美 「よくぞ、また、王国「ラ・ムーン」の地に戻って来た」と、国王の声。 危うくワインを溢しそうになったウインだが、ここは大人の対応で話を交わす。 「いえいえ、地のネットワークを形成しているモーライが潰れて、しかも、住処である住居の一部が半壊の憂き目に遭い。再建の資金を蓄えるために、王都に来ただけであります。 再建の資金が集まれば、また、イースターに帰る予定です」と、国王と対等に話すウインであった。 なんだ、すぐに帰るのか?つまらん。と、渋い顔をしながら話す国王。 「それにしても、王都に来て早々、派手な魔法を使いおったな。ウイン。まあ、折角王都に訪れたのだから、当面の住居が必要だ。そこで、与は以前よりウインに褒美を思っておったから、焼け跡になった所に、新たに住処を建てることを宣言する」 「当然、受け入れてくれるよな。魔法使いウイン・リューガー」 断る理由もなく仕方なしと頷き、国王からの褒美を受け取るウインであった。 それを聞いた国王は、ホッとしたように見受けられた。住む所ができてよかったね。と、はしゃぐサフィであった。 しばらくして、また、執事の声が鳴り響く。 今度は、王国「ラ・ムーン」の誇る四将軍の登場であった。 恰幅の良い三将軍と、代替わりをして間なしの若き将軍。 そう、ウインたちが火の海から助け出した母子の夫クリフト・サイファン卿その人であった。 国王の前なのか、心なしか息遣いが荒く、慌てているクリフト・サイファン卿であった。 訊くと、凄く怖い目をしながら国元から王都にはせ参じてきた。との事。グランの仕業と知っているだけに、同情するウインであった。 そんな折、ふと、空を見上げるとはるか遠くに晴れ渡る空の中にあって、一点の黒い影を発見したウイン。 サフィを呼んで、あれを落とせるかと問う。 氷の矢があれば、風の気流に乗せて射抜けるかもしれない。と、答えるサフィ。 ほほ、感心している国王と周りの人たち。 ややあって、ワイン色の氷の矢を作ったウイン。 「回り込ませてヒットさせよ」とアドバイスを送る。 ハイと短く応え、気を練るサフィ。 やがて、何処からともなく風の渦がサフィをまとう。 行け!と鋭い声を発して、ワイン色の氷矢を放つ。 俺もと、まけじに火矢を放つマリス。 直線的に放った火矢は、使い魔にあっさり交わされたが、マリスの放った火矢が、丁度、陽動的な作用になって、サフィの放ったワイン色の氷の矢が、大きく放物線を描きながら、風を読み。目標の敵の使い魔の斜め後方から、見事に射抜いた。と、同時に、真っ二つに引き裂かれる敵の使い魔。 ウインたちの少し後方で、興奮しながらカマイタチを放ったアスカの姿が印象深かった。 周りからは、余興じゃないかと思いつつ、拍手喝采を浴びるサフィらたち。 よくやったと、ウインから誉められて、ふらつきながら周りの人たちにエールに応える。 ふむ、落ちていった方向を見さざめながら、術者はかなりのダメージを受けたようだ。 ごちるウインであった。 五章 1 地のネットワーク 余興のように捉えられた。敵の使い魔騒動から、ややあって、周りが落ち着き始めた頃。こちらでございますと執事が、ある東屋に、ウインたちを向い入れる。 そこには、国王と北の若き将軍サイファン卿の姿があった。 タダならぬ雰囲気を察知した。サフィとマリス・アスカは、周りを警護しますと、そうそうに、東屋から脱出した。 後に残ったウインとジーザス老は、おもむろに東屋の中に入り座した。 はじめに口火を切ったのはジーザス老だった。 昨日の夜遅くウインが、魔法省に来られて、砂のキャンバスを貸して欲しい。 そして、おもむろに、無地の砂に地図が浮かび上がった。 赤く示された点は、一連の事件があった場所、三ヶ所である。 一つ目の所は、王都よりも東に位置した、森がうっそうと生えている所である。 ここは、サフィとグランが侍女を助けた所。 二つ目は、王都の大手門を少し入った所。今回の事件の中心である食堂兼旅館『黄昏の風雲亭』の所。 最後の所は、北の領地、二つのある城の平城だった。もう少し、詳しく調べていくと、どうやら、地の精霊が関与している形跡があった。しかも、三つすべてにおいてである。 水のカメから、地の精霊を呼び出すウイン。 おずおずと出てきた蛇組のお頭。話を交わすイン。 この騒動の発端となったのは、北の領地での出来事のようだ。 そして、マリス・グランドールは、蛇組の養い子だった。 2 暴力 今まで、神妙なおももちで聞いていたクリフト・サイファン卿が、重い腰を上げるように、おもむろに話し始めた。。 そう、あれはさかのぼる事。数年前の話。父から領地を譲り受ける頃。 その当時、クリフトとエルザとの間には、世継ぎになる子どもがおらず。密かな問題になっていた。そんな折に、伯父から第二婦人を貰うようにと言われ、押し通されてしまい。 仕方なくもらった女性が、サリス嬢であった。 そんな折に、エルザ婦人から、待望の一子アリサが産まれた。次にサリス婦人から、男子が産まれ、さらに、エルザ婦人から男子のマサルが、次々と生まれていった。 去年から、新たに魔導師を雇い入れたサリス婦人。その頃から、北の帝国からの小競り合い起きていた。 そんな時に、事件が起きた。 サリス婦人を当てにして勢力を伸ばそうしていてた伯父。クリフトのする政治に対して、あることないこと苦言を呈してくる伯父が、三ヶ月前に、突然の謎の病死をした。 色々な噂が流れる中、サリス婦人と魔導師は、山城に引きこもるようになって行ったのも、この頃であった。 それから、北の帝国との小競り合いが頻繁になり、北の領内にない通者が居るのではないか、先導するものも出てきたりして、肉体的にも、精神的にも、とことん疲れ果てしまい。心配するエルザ婦人に対して、クリフト卿は、暴言を吐き、暴力をするようになり、どんどんエスカレートして行き。嫌がるエルザを強引に犯すありさまでした。涙を流しながらに懺悔するクリフト卿であった。 そんな、ある日の事、子ども達にまで手を出そうとする私に、自分が何をされても我慢と思っていたエルザであったが、子ども達まで暴力をするとなれば、もはや、夫婦としての生活が崩壊したと思ったようで、とうとう、侍女の手引きで、城から出て行ってしまった。妻や子ども達にまで、見放された哀れな自分だと、頑なに思い込み落ち込む一方でした。 やがて、伯父の道を歩むが如く、南東にある沈黙の塔に閉じこもり、哀れな自分だ。生きていても仕方がない自分だ。 さらに、深刻に思うようになり、徐々に死への階段を登りつめようとした時に、王都からの緊急出動要請が届いた事と、自分の所から逃げ去った妻と子ども達を保護したという知らせ。同時に、妻の妊娠も、自暴自棄になってしまっているクリフト卿の耳に届いた。 妻や子ども達に謝りたいという一身で、どうにかこうにか、沈黙の塔から、抜け出せたクリフト卿だった。 3 呪いの魔法 沈黙の塔から抜け出せたクリフト卿は、疲れ果てたその足に鞭打って、国境まで来た時に、グランと出合った。 言葉を話す馬に驚きながらも、グランの背に跨り、道なき道を走るグランの背で、悲鳴をあげながらでも、頑張り抜き、王都に急ぐクリフト卿の決心が見て捕らえた。 国王に向って、「駄目です」と、突然、執事の声に、びっくりする周りの人たち。 「まだ、何も話していない」と、不満げな国王。 グランに跨りたいという思いが、顔に出ています。と、のたまう執事。 それ所ではないと話すジーザス老。 さっそく、北の帝国の戦のために、軍法会議の準備をと焦らす執事。 仕方がないとグランに跨ることを諦める国王。取り残されたウインたち三人。 クリフト卿が出て行こうとする時に、奥さんに逢う時には、頬をひっぱかれる覚悟をもって接すれば、奥さんの方も折れて元の鞘に収まると思う。と、助言するウイン。 感謝の意をもって去って行ったクリフト卿の顔には、先ほどまでとは違い、重苦しい緊張感は微塵も見られられない。 サフィが、ウインに問う。 「今、ここで、黒魔導師の呪いの魔法を解けなかったのか」 鋭い問いに、感心しつつ、まだ、今、ここで呪いの魔法を解くときではないし、秘術の道具も揃っていないから、危険でもある。 もっともらしく、サフィに返事をするウインだった。 まだ、近くに残って周りの人たちに指示をしていた執事を捕まえて、もう、お暇するので国王様や四将軍たちには、よろしく。ヒョウヒョウとした衣で立ちで挨拶をするウイン。 それを見送る執事やアスカ達だった。 さて、今晩は長い一日になるなと、つぶやくウインだった。 4 平手打ち 「あなた、目をつむって、歯を食いしばって」と、言うや同時に、鋭い一振り。 「バッシ!」 夜のトバリが下りた時に、思いっきり叩きのめす音が部屋中にとどろいた。 しかめっ面で、頬を撫でている男。今までのウップンが今の一撃でスッキリしたような顔の女。男の名は、クリフトであり、女の名はエルザである。 これまで受けて来た暴力や性的暴力は、今の平手打ちで許します。 目に涙を浮かべながら語るエルザ。 これから、私の一生は、クリフトと共にいかなる時でも離れずに、寄り添える一存であります。 頬を押さえているクリフトを抱きかかえるようにして、抱擁するエルザであった。 痛みと嬉しさで、顔を歪めながらエルザの抱擁に応えるクリフト卿。 その周りを暖かな面持ちで眺めている侍女とアスカ。驚きの目で見つめている二人の子ども達。 ややあって、おもむろに、見届けは終わったと部屋から出るアスカ。 外には、グランが待っていた。 「何で、貴方が来ているの、ここは王家の私的な場所よ。どうして?」呟くアスカ。 そんな折、部屋から出てくる男。まだ痛むか、手形がくっきり付いている頬を撫でながらクリフト卿であった。 「待たせたかな」とグランに話しながら、「いや、今来た所だ」と律儀に返答するグランの背に跨るクリフト卿。 あっけに捕られているアスカを置いてきぼりにして、森の方に進むグラン。 そっちは、断崖絶壁よと、叫ぶアスカに対して、手を振るクリフト卿。そう、グランには不思議の力を宿していて断崖絶壁も何んのそのなのである。 しばらくして、ジーザス老もアスカの居る所に現れた。 役者が揃ったようだな。と、知ったかぶりをしながら王宮から出て行くジーザス老と、何かいたげなアスカ。その二人を心配顔で見送るエルザたちであった。 六章 1 呪いの魔法 話はさかのぼって、夕焼けが美しい王宮を見上げながら、帰路に着くウイン一行。 アトラスとローザの居る『炎たちあがるサラマンダー亭』に帰ってみれば、まか不思議。 火事の為に更地になってしまった『黄昏の風雲亭』跡地に、立派な建物が建っているじゃないか。 しかも、公園が庭園になり林まで造りあげている。その中心部分には、5メートルはあるような女性の裸婦像まで備え付けられてあるじゃないか。 目を細めているウインは、この光景に対して、やりすぎじゃないかとつぶやき考え深げに居る愚痴る。 そんな所に、アトラスとローザが駆け寄ってきた。 ウインたちが王宮に行って間なしに、それはまた、うじゃうじゃと人が湧いてきて、あっという間に、新しい建物が建ってしまった。しかも、公園が庭園に生まれ変わった。 問題は、立見の裸の女性像だった。 男どもは、鼻の下を伸ばしにやついて、一歩もその場から離れない始末であった。 でも、今ようやく囲いを作って裸の女性像の正面の真下にいけないようにしてきた所なんだ。と言うローザであった。 心なしかサフィの顔を似ていないかと問うマリスに対して、あんなに胸は大きくないわよと、トンチンカンな言葉を返すサフィ。 まあまあ、ここは押さえてと、手をこね回しながら媚びる新たな建物の主人になった元『黄昏の風雲亭』の主人。 どうやら、国王陛下に訴えが受理されて、褒美に、と言われて、ウインたちが住むための管理人になったようであった。 しばらくして、夜が深まる頃に、グランに乗せられてたどり着いたクリフト・アイファン卿。気配を感じて、表に出てきたウインたち。 こちらに来る前に、エルザと子どもたちが暮らす王宮の離れに立ち寄ったウイン。 その時に、クリフト卿にかけられた完璧なまでの呪いの魔法を解くには、愛の一撃が必要だ。しぶるエルザを何とかかんとか説き伏せていた。 頬に強烈な手形をつけられたクリフト卿の姿を見て、ウインの頼みを、エルザは受け入れたことに、満足しながら、これから、呪いの魔法を解き放つ儀式をしようじゃないか。 神妙な面持ちで聞く周りの人たち。だが、何だか多くのギャラリーが集まってきているじゃないかと、愚痴るウイン。 それをよそに、早くやれと野次るアトラスやローザ、イダテンまでいる。 クラフト卿に対して、広場の真ん中に立ってくだされ。 ウインに促されて立つクラフト卿。その周りを大きな杖を付いて描く魔方陣。 ウインにしては珍しい光景だ。とのたまうアトラス。 やがて、苦心して魔方陣が完成した。 おもむろに、クリフト卿に近づき、エルザから一撃を受けた痛々しい手形の場所に、小さな魔法の杖を近づける。 どうであろうか、寄せた魔法の杖に、共鳴するのか、モヤモヤとした揺らぎの中から、どくろを巻いた蛇のようなものが見えてきた。 一瞬の出来事である。 蛇もどきは、ウインの持つ魔法の杖の先端に齧り付いた。その刹那、サフィに向って「壷を差し出せ」と鋭い声で言う。 あっという間に、封印の壷の中に納まる蛇もどき。安堵の声が聞こえた。 見事なまでの手早さだったと、パチパチと拍手の遅れて着いたジーザス老とアスカたち、まだ、緊張のの糸が張り詰めているウインとサフィ。 「コーヒーは鮮度が命、魔法戦も鮮度が命」とつぶやきながら、休まずに次のしかけに入るウイン。心配げな周りの人たち。 結界の中に封印の壷を投げ入れ蛇もどきに止めを刺す。 光の爆発と共に蛇もどきは、苦しげな声で、覚えていろ。捨て台詞を吐きながら、黒魔導師の元へ還っていった。 2 突撃 さて、これから敵陣の真っ只中に突撃する者たちは、今描いた魔方陣の中に入りなされと、ジーザス老が話す。 当然の如く、魔方陣の中に入るウインとサフィ・マリス。続いてクリフト卿。アトラスとローザ、イダテンもアスカも続いて入る。なんと、ワンダー卿も円の中に入り。もう、いないのかと周りを確かめるジーザス老。と、その時、何処からともなく現れた国王の姿が見て捉えた。 慌てるジーザス老だった。が、静かに国王に向って言い放つウイン。 「国王には、グランを背に同道と正面から戦いに赴いてもらいたい。裏方である魔法使いの戦いは地味でありますからね」 グランに、国王を乗せて行ってくれ。 国王、また後で、かの地で合流しましょう。国王すら陽動に使うウインであった。 言うや否や、魔方陣からウインたち一行の姿は消えていった。 慌てる国王、けれど、念願かなってグランの背に乗る。皆の者、行くぞと、号令の元。 何処から現れたか知らないが、国王を守る取り巻き達の姿があった。ただ、後で、グランを追いかける事で、地獄を見るのは明らかである。 一方、移動魔法で北の山城の門の前に現れたウインたち一行。 城門には、一匹の使い魔がこちらを見据えているじゃないか! 「門を通りたかったら、カギを見せろ。無ければ、自らの心臓を差し出せ。我輩が、命のカギを作って進ぜよう」と、うそぶいていた。 冗談じゃない。とこぼすローザ。運命の審判とか、命の審判とか言っているんじゃないか。とアトラス。しゃらくせいと怒鳴り、門に居る使い魔を切って捨てるワンダー卿。 門が開き、ドドッと一斉にスケルトンもどきの部隊が、城から躍り出てくる。 ドンと爆発音が響き、三分の一のスケルトンもどきぶっ飛ぶ。火の使いマリスであった。 むやみに建物を破壊しないで欲しいと、懇願するクリフト卿。 ばかね。とたしなめるサフィ。頭を掻くマリス。 ここは、俺とローザにまかしておけと怒鳴るアトラス。いやいや、ワンダー卿もここは取り仕切る。 後は任したとウインたちは二階へ進む。こちらからと、クリフト卿。解らないような所に隠しの階段が現れた。さすがは、元主の城。城の見取り図は頭の中に入っていたかと感心するジーサス老であった。 けれど、最近では、屋上であった所にドーム状の建物が作られており、どのような造りになっているのか解らないと話すクリフト卿。 話の内容からすると、ドーム状の建物に、黒の魔導師の居る公算が強い。 シーフの感が働く。と、イダテンの声。 このままではラチが明かないと、二手に分かれようと話すウイン。 隠しの階段から進むのは、クリフト卿・ジーサス老・イダテン。 残りは、普通の階段から屋上に向うのは、私ウイン・サフィ・マリス・アスカ。 何か、異論は無いかと問うウイン。 分かったと、うなずく仲間たち。それぞれの思いを心に刻んで進む。 3 それぞれの対決 一、 国王&グランの戦い 何故ここに居るんだ。と、国王の声に驚く西軍の兵士達。 斥候によると、北の領地境の川原に、一万規模の妖魔兵が駐屯しているとの事で、我が軍三千では太刀打ちができず、どうしたものかと思案していた所でございます。西軍を任されている将軍が述べる。 「速、戦の用意をしよ」と国王の鶴の一声。 まだ、深夜であります。驚く西軍の将軍。 何を言っているのか!と一喝する国王。脅える西の将軍。 今が、チャンスの時。この時を逃すな。 そして、まもなく一斉に戦いを仕掛ける準備が整い。国王の号令の下、国王直属の騎士団と西軍と南軍が、黒魔導師の一万の妖魔部隊に、中央突破が開始された。 奇襲が上手くいき、突破も時間の問題と思われた時。思わぬ敵兵が現れた。 黒の軍服に白髭の騎士の登場で、味方の兵が倒れていくありさまを見た国王は、グランに向っていくぞ。武者震いで応えるグラン。 一進一退の攻防から、馬力に勝るグランの馬らしからぬフットワークで、相手を翻弄してゆき、国王の意図を汲み川原に誘う込むグラン。 黒騎士の馬がバテはじめて、後ろ足を川原の石のつまずきバランスを失った瞬間。 国王の剣が黒髭の騎士の顎に、あぞやかにヒットして勝負あった。 その瞬間、まだまた、沢山の妖魔たちも、一瞬で掻き消えた。 何処からともなく、勝利のカチドキがおこり、国王は剣を突き挙げて、「皆の者、この勝利を期して、更なる勝利を呼び込もうじゃないか、北の城で、一時休憩をして、西の砦を北の帝国の脅威から守ろうぞ!」 「おう!」呼応する。兵士達であった。 二、 マリス&アスカの戦い 二階に上がって、廊下を通り過ぎようとした時に、イキナリ開いた部屋から、魔界の魔犬ケルベドスが躍り出てきた。危うく噛まれそうになったマリスとアスカ。 ここは任したとウインの声。 頑張ってみると叫ぶマリス。これでも使えと何処から調達したのか、魔剣をマリスに投げ入れるウイン。あわゆく、切られそうになるマリスに、ドジねとつめたい一言と、アスカ。 「おやおや、お相手は、何時ぞや、使い魔を打ち落とした時の皆さんでござったか、あの折は、何も反撃が出来ずに、残念だったが、ここはリベンジといきましょうか、あいにく、魔犬ケルベドスも腹をすかしているようで、倒した後は綺麗さっぱりと食することでしょう」と、あれこれと、アスカに向って心を逆なでする言葉を浴びせ挑発する。元魔法省からの派遣されてきた魔導師だ。ギリギリの所で爆発しそうになる感情をこらえているアスカだ。 マリスが受け取った魔剣には、手紙が添えられてあった。 『踊る舞踏会、さあ、楽しく舞え』そして、相手に投げろ。と書いてあったが、マリスはケルベドスからの攻撃に遭い。最期まで手紙が見られず。 『踊る舞踏会、さあ、楽しく舞え』だけ言って、魔法が発動してしまい。悲鳴をあげながら、ケルベドスに向って、踊りかかるマリス。なれない剣舞を舞う始末であった。 そして、大広間の方にケルベドスと共に移動していった。 その一方、アスカは、元同僚であった魔導師と相対していた。 「おお、私目のお相手は、アスカお譲様でござったか。アスカお譲様の得意な魔法は、確か防御魔法でしたよねェ。ああ、それと、風の魔法カマイタチでしたか」 焦るアスカ、相手に自分の内を知られている以上、あまり打つ手が無い。 硬直状態が続くかと思われた時。 大広間から、大きな犬の首が、二人の間に飛んできた。ケルベドスの3つ首ある内の真ん中の首であった。 大広間では、凄惨きまわるような状況の中から、あっちこっちに、引っかき傷を負いながらでも互角に渡りあい。ケルベドスと共に、マリスも躍り出てきた。 「やっと、この魔剣のリズムに慣れてきたぜ」うそぶくマリスである。 効果的な攻撃で、また、一つ首を切られるケルベドス。黒魔導師の方に逃げるケルベドス。 そして、第3の首が飛ばされ倒れるさなか、黒魔導師も一緒に倒れていた。 倒したのはアスカの風の魔法カマイタチの最強バァージョンであった。 二つとも同時に倒すほどに、怒りが爆発したのであろう。 おっかねェ。と、小さくつぶやくマリスがいた。 三、 クリフト卿&ジーザス老・イダテンの戦い 隠し扉へ乗り込んだ三人。クリフト卿とジーザス老、そして、イダテンたち。 長い階段を上がると、3階のある寝室に出た。 そして、次の間に出て見ると、世界は一転したいた。 紫の部屋である。 その真ん中には、サリス第二婦人と、人の倍もあるスコーピオンが鎮座していた。 「待っていましたわよ。あなた」 「もう、馬鹿げた事は辞めよう」 「馬鹿げているですって、よくも、まあ、そんな義理が言える立場ですね」 続いて、ここは、私の一存で、どんなことでも出来る空間。苦しまないようにあの世に行って差し上げましょうね。 あと、そこの目障りな二人には、消えてもらいましょう。と、同時に、隔離されるジーザス老とイダテン。 ここは何処だと、焦るイダテン。どうやら、屋上のドームの中じゃないかと、長い髭を撫でながら話すシーザス老。 どうすりゃいいんですかと、パニくるイダテン。 まあ、待て、懐から取り出したのは、水晶玉だ。 写されているのは、クリフト卿と、元サリス第二婦人であった。 「私の子どもは、何処に居るのですか」 「何を言っているのだ」 「幽閉したのですか!それとも殺したのですか!答えて下さい」と、悲痛な叫びのサリス。 何か、言葉がかみ合わなくイラついているクリフト卿であった。 何故、私たちの間出てきた子どもを幽閉や殺さなくてはならないんだ」 一時、育ちが悪く、北の気候では、命に関るかもしれないと、暖かい南の地方に療養させようとせがんだのは、君ではなかったのじゃないか。 怪訝な顔をするサリス。 ハッと気付くクリフト卿。 「もしかして、聞いていなかったのか」 確か、取り付いたのは、魔法省から派遣された魔導師だった。 まさか、あの黒の魔導師の指図で、間違った情報を魔導師から、あなたに、悪意な言葉を吹き込まれたのだろう。 嘘よ。何もかも嘘よ。と、心乱れるサリス。 この命、捧げてもいい。身命に誓って嘘は言っていない。 近寄るサリスとスコーピオン。 いかん、と、ジーザス老は、懐から出したサングラスを耳に掛けて、イダテンには、目を隠せと言いながら、持っていた水晶を頭上にかざして、結界を解く魔法の呪文を叫んだ。 一斉に紫の壁がガラス細工を叩き割ったの如く下に叩き付けられる中、光のトンネルができ、ジーザス老とイダテンは、慌てて中に入っていった。 目の前で起こっている。 スローモーションのように、スコーピオンの毒針がくりすと卿の心臓に向って鋭く差し込まれる。はずだった。 けれど、刺されたのはサリス婦人の方であった。 スコーピオンの針先とクリフト卿の間に、決死の覚悟で、身代わりに傷を負ったサリス。倒れていく彼女を、抱き起こすクリフト卿。 またしても、クリフト卿に振り降りた凶器の毒針。 その刹那、イダテンのナイフが見事にヒットして、クリフト卿とスコーピオンにわずかな間が空いた瞬間。この機を逃さず。 ジーザス老の炎の魔法が決まり、燃えていくスコーピオンと、刺し違えたサリス。 「最期に、この手で、我が子を抱きたかった」と、サリスのか細し声が聞こえた。 力なく座り込むクリフト卿を立たせるイダテン。 最後の仕上げに参りましょうか。 四、 ウイン&サフィの戦い 二階でのマリスとアスカ。三階でのクリフト卿たちの戦いが、激しく繰り広がれている頃。ようやく、屋上に着いたウインとサフィであった。 「遅かったではないか」黒の魔導師の声が、妖魔ドームのある所から聞こえた。 「これはこれは、今はウイン・リューガーと名乗っている。呪われし賢者様ではないですか」皮肉たっぷりに言い放つ。 静かに話すウイン。 「もう、貴殿以外は、ここはほぼ制圧した。戦を諦めて投降したらどうだ」 まだ、我は負けてはいぬ。 ここに、妖魔ドームがある限りはと叫ぶ。 「いでよ。ガーゴイル」 8体のガーゴイルが、ウインたちの前に現れた。緊張が走る。 おもむろに、呪文を唱えるウイン。召喚魔法だ。 現れたのは、最強を欲しいままにしている最大級の死神デス一体。 かかれと、黒魔導師の声に、反応してデスに四体。ウインとサフィに四体に分かれて、カマを振りかざす。 「危ない!」 サフィの胸を押すウイン。「エッチ!」と叫びながら、後方にさがるサフィ。 「このどスケベ」の声を受けて、風の魔法『カマイタチ』が発動した。 確か、圧倒的な優位に立っていた黒魔導師のはずだった。何をこの機におよんで、弟子と乳繰り合っているんだ。 この呪われし魔法使いウイン。あと、魔法が使えるのが、後一度と思っていた。 けれど、弟子のサフィの放つ『カマイタチ』が、幾重にも分かれて飛んで来た。 サフィを追いかけて行ったガーゴイル一体。それに、ウインの周りにいる三体のガーゴイルたち。あっという間にサフィの放った『カマイタチ』の餌食になって掻き消えた。 それと同時に、ウインが召喚されたデスを目を放した隙に、瞬間魔法で消え、囲んでいた四体のガーゴイルたちのカマは空を切っていた。 この光景に、我が目を疑う黒魔導師。一瞬の油断が命取りとなって返ってきた。 背後に現れたデス。ものの見事に、黒魔導師は、デスの振りかざした大鎌の餌食になり。 「く、くそう、油断をしていた」と、瀕死の重傷を受けた。まだ負けていないと、回復魔法を施している最中に、予期せぬ出来事が起こった。 今まで圧倒的な威圧感を放出させていた。そびえ立っている妖魔ドームが、ガラス細工が壊れる如く、突然ぐずれていった。一瞬、何事が起きたのか分からずにいる黒魔導師。 妖魔ドームの中に閉じ込めら入れてたジーザス老が水晶の力を増幅して、破壊魔法が炸裂した事が原因である。が、事情を知らない黒魔導師としてみれば、絶望の淵に突き落とされた気分であろう。ジーザス老の絶妙な攻撃劇で、妖魔ドームからの重圧から、解放されて思わず。にたりと笑うウイン。 やや、あって、サリスも逝ったかと呟き、おのれ、ウインと、最後の力を振り絞り戦いを挑む黒魔導師の姿には、生気が見られない。形勢逆転を感じていた。 弱りきってしまっている自分の放つ攻撃魔法を難なくウインに交わされ、またしても、サフィから放たれた凍矢を交わしきれず。 左手に描かれてある命の六芒星の印を射抜かれ瀕死の黒魔導師であった。 ウインばかりを警戒していて、子娘一人に翻弄された哀れな黒魔導師であった。 そんな時、北の帝国の方から、鋭い攻撃魔法の飛んで来だ。慌てて防御魔法を張るウインとサフィ。 「暗黒の魔法王様。バンザイ!」叫び声と共に、消えていった黒魔導師であった。 以外にあっけない幕切れに不満のウインであった。 4 朝焼け しばらくして、屋上では魔法のかがり火が炊かれていた炎が消えさり、北の山城一帯を覆いかぶさっていた暗き靄が消え行き。 やがて、北の大地に朝焼けの日の光が差し込み。一陣の風が降り積もった木々の雪が舞い上がり、雪と朝日の光の織り成す芸術。キラキラした「ダイヤモンドダスト」になり、一同は、しばし、見とれていた。 平和の到来が実感できる息吹が、今までよりも、より多く感じられる。 戦い終えて、屋上から下に降りてくるウインとサフィ。 下には、国王やマリスやアスカ、クリフト卿とジーザス老たちが、勢ぞろいで、ウインとサフィの生還を待ち望んでいた。 ローザ、「お帰り」ローザ。 アトラス、「待っていたぞ」アトラス。 ウイン、「少し、遅れたかな」ウイン。 国王、「これで、しばらく。北の帝国の方も、戦いは自重するだろう」と、国王は言う。 アスカ、「そうだと、いいですね」アスカ。 マリス、「腹が減った。朝ご飯を食べに帰ろうよ」 サフィ、「今日は清々しい小春日和になるよね」 「そうだな」と、ウインが頷く。 やがて、ジーザス老が、移動魔方陣を完成させて、ぞれぞれの思いを心に秘めて、王都に帰って行くウイン一行。 グランは、訴えている。「俺も、早く帰りたい」 だが、ローザが、「あんたは、国王様と一緒に帰るのよ」 グラン、「どうして?」 国王様と一緒に、白髭の騎士と縦横無尽に戦って勝利の手柄を収めたのだからね。 凱旋パレードまでは、住処に帰れないと思うべきだ。と、クリフト卿にうながされるグランであった。 「有名人は、つらい」などと、訳の分からない事を発しながら、周りを駆けているグランであった。 ウイン一行が、帰路に立つのを、見送る国王と北の将軍クリフト・サイフィン卿であった。 |